ペーパークラフト講座

基本篇

このコーナーでは、これからペーパークラフトにチャレンジしようという方のために、基本的な知識やテクニックをご紹介します。中には門外不出の裏ワザに相当する部分もありますが、ペーパークラフトの普及のためには情報の提供を惜しみません。ハサミの使い方に始まり、今後どんどん記事が追加されていくので、全部集めればペーパークラフトの入門書が完成することになります。
第1〜3回
カッティング
第4回〜7回
組み立て
第9回 紙
実践篇
道具紹介



第8回 かみ合わせ

 紙を接続するには、接着剤や他の道具を使わず、紙に施された仕掛けだけでつなげる、という方法があります。この方法で立体を作れば、百パーセント紙だけで出来たペーパークラフトを作ることが可能になります。じつは私の開発したワンシートクラフトが、まさにそれにあたるわけですが、このようなしくみは、パッケージデザインなど、身近なところにも応用されています。
 二つの紙をつなげる(離れた二枚の紙、または輪や立体を閉じるとき)には、大きく分けて左の二通りの方法があります。

上図はいわゆる「かみ合わせ」またはフック方式というもので、互い違いになった切り込みをかみ合わせて接続します。

下図は「さし込み」またはコンセント方式とでも言うべき方法で、プラグに相当する突起をジャックに相当する切り込み穴にさし込みます。

どちらの方式にも長所、欠点はあり、左図のような単純形では抜けやすかったり、ぐらぐらして安定しなかったりします。

 そこで多くの場合、この基本原理に何らかのテクニックをプラスして、より確実に接続できるような形を工夫することになります。ここでは、そんな接続のテクニックを、いくつか紹介していきます。まずは、かみ合わせ方式における改造例から…。

 かみ合わせ型の接続法は、輪をつなぐ場合などに便利ですが、基本形では横すべりして抜けやすいのが欠点です。

それは切り込みが紙の切り口から垂直に入っているからで、これを解消するには、左図のように切り込みに少し角度をつけたり「返し」を作るのが有効です。

これによってかみ合わせを外すには、紙を少し戻してからずらさなければならず、2クッションの動きが必要になります。自然には、紙がそのように変形することはないから、接続が確実になるわけです。

左図では、下に向かうにつれて、接続部は離れにくくなりますが、一方、フック(切り込みから先の突出部分)の構造は弱くなり、破損しやすくなります。

ここにあげたかみ合わせ方式では、支点(切り込みの一番奥の一点)に力が集中し、フックだけで全体を支えることになるからです。また、支点を中心にしてパーツがぐらぐら揺れるのも問題です。

 そこで、かみ合わせの箇所を増やし、かかる力を分散させるとともに、ぐらつかないように固定するという方法があります。
 (もとより立体を作る場合には接続箇所がいくつもあるわけですから、単純なフックだけでも何とか形になりますが。)

 複数のフックを使うには、ある程度接続部の大きさに余裕があることが望まれます。一番上の図では、フックを前後に直列に並べた例。それぞれ左の切り込み同士、右の切り込み同士をかみ合わせます。切り込みの向きに注意してください。

 この方法は、あたかもロープをからませるのに似ています。実際、紙を真中の図のように波型に切り抜いて、編むようにからませるのも、フック方式の変形といえるでしょう。

 一番下は、切り込みを並列に並べた例です。これも、切り込みの向きが食い違っていることによって、より外れにくくなっています。

 実際に紙を切って実験してみた方は気がついたと思いますが、工夫を加えるごとにフックはかみ合わせにくくなっていきます。しかしこれは短所ではありません。接続に手間がかかるということは、それだけ外すのにも手間がかかるということ。ましてや自然に外れたり壊れたりすることはなくなっていきます。

 ただし、箱のふたの留め具のように何度も着脱することが必要な部分については、あまり複雑な接続より、基本形に近いシンプルなしかけが向いているでしょう。要は、どこで使う接続か、何と何を接続するのか、接続部の大きさは、など、いろいろな条件によって接続法を考えるのがベストです。

 次に、さしこみ式のジョイントについて説明いたします。わかりやすいようにプラグ側を青、ジャック側をピンクで表現し、差し込んだプラグの先は混色で示します。

 左の上のように、プラグの先を細くすると差し込みやすくなりますが、その反面すぐに抜けてしまいます。何度も抜き差しをする箇所には向いているといえるでしょう。

 一方、下のようにプラグを丸くしたものもあります。丸の直径はジャック穴より少し大きいのですが、なめらかなカーブをすべらせることによって楽に差し込むことができ、付け根の細い所できっちり止まります。抜けることもありません。切りぬき済みの市販キットによく使われていますが、手で切り抜くのは面倒なようです。

 抜けにくくするための簡単な手段として、フック式と同じように「返し」、つまり引っかかる部分を付ける方法があります。

 左の上では片側だけに返しが付いています。プラグの幅は穴を通る大きさで、穴を通過後、プラグを上にずらして引っ掛けます。しかしこのままだと、ふとしたはずみでずれた場合スポッと抜けてしまう可能性があります。

 下の例では両側に返しが付いています。このままでは穴を通らないので、グレーの線でプラグを折りたたみ、幅を狭くしてから穴を通し、その後でプラグを開きます。固定する手段としては最も確実です。

 後から手を加えなくてもプラグの両側が穴に引っかかる方法を左に紹介します。
 プラグの「返し」に長い方と短い方があるのがポイントで、まず長い方から穴に差し込み、長靴をはくような動きでプラグ全体を穴の中に沈めます。(下図)
 その後、プラグを下にずらして短い方の「返し」も引っ掛けます。

 このジョイントを外すには、以上の工程を逆にしなければならず、自然に抜けるということはまずありません。

 左は、拙著「ボーニー」の中で多用されているプラグの形です。現在のところ、差し込みやすさ、抜けにくさとも、これが1番ではないかと思っています。

 長い「返し」の方を突出させ、こちらから先に差し込むということが誰にでもわかるし、先が尖っているので穴に入れやすい。また、角がないのでスムーズに差し込めるなど多くのアイデアが生かされています。

 これ以上に接続しやすいジョイントの形があったら、ぜひ紹介してください。

 プラグの差し込みやすさは、ジャックの形にも左右されます。市販の切り抜き済みキットでは、左の2つのように、穴の両端に小さい切れ込みや小穴が開けられています。

 これによってジャックが開きやすくなるとともに、穴の長さがこれ以上裂けないためのストッパーにもなっています。

 カッターで切り抜く一本線でも、差し込みやすいジャックにするためには、右のように少しカーブさせた穴にするとよいでしょう。カーブの内側にプラグの先を押しつけるだけでジャックが開いてくれます。これも「ボーニー」でよく使用している仕組みです。

          
 差し込み型も、フック型と同じく複数にすることによって、より接続を確実にすることができます。左の例のように、「返し」の向きを逆にするのがポイントです。

 差し込む時は青い方の紙を少したわめてプラグを接近させてから穴を通します。こんなことができるのも、柔軟な紙ならではの技法です。

 上の原理で、2つの穴を極限まで近づけ、ついに一つにしてしまったのが左の図です。

 これは一見、両側に「返し」の付いた一個のプラグに見えますが、真中に切り込みが入っているのがミソで、これによって紙をゆがめ、プラグを2つとも穴に差し込むことができます。

 ここでは、差し込み穴の方に手を加えた例を紹介します。

 上の例ではプラグに対し垂直方向に穴が2つ空けられています。ここにハンマーヘッド型のプラグの両端をそれぞれ差し込むことによって堅固な接続を可能にします。

 下の例では、同じ形のプラグですが、穴が図のようにカーブしています。プラグをまず穴に深く埋めこんでから少し戻すと、穴の両側の三角部分にプラグの端が引っかかるというしかけです。

 左の例は、差し込みをプラグの四隅に対応させた例です。大きな面積が必要でもあり、普通の組み立て工作には向きませんが、これを見てアルバムを連想した人は多いと思います。

 つまり実用よりも、見た目にきれいという装飾的な側面が強い接続法といえます。同時に、逆の見方をすれば、何気ない日常の中にも、ペーパークラフトのヒントが見出せるということです。

      
 次に、差し込むプラグの側にも穴が開いていたり、穴同士をかみ合わせたりする変則的な差し込みを紹介しましょう。

 上の例は、差し込んだプラグを少し戻す時にプラグ側のカーブした切れ目をジャック側の切り口に引っ掛けるというものです。中央のものは、逆に引っ掛ける出っ張りがジャック側に付いている例です。

 下の例ではプラグとジャックの区別はなく、互いに引っ掛け合います。差し込み型というよりも、フック型の立体版といったところでしょう。

 次に、接続した部分がそのまま動かせるというしかけを紹介しましょう。接着しないからこそできる芸当です。

 上の例は差し込み部分が前後にスライドする仕組み。スライドするだけなら、単純に穴を通すだけでいいのですが、端がふくらんでいて穴を通らなかったり、何度も付け外しするような場合には、このように両側からはさみこむ方法が有効です。

 中央の例は、鳥のくちばし状のプラグを回転させて差し込んだもの。プラグの外縁はなめらかな円になっており、ふりこのような揺動運動をさせることができます。

 下の例は、これ1枚ではわかりにくいかも知れませんが、ピンクの紙の中央に赤ラインのような切れ目が入っていて、それを青い紙の中央の穴に通してから広げ、外れないようにしたものです。これによって青い紙を何回転でも回すことができます。

 これらの仕掛けは、飛び出す絵本の中にいくつも見ることができます。

 差し込み型の利点は、1対1の紙の接続ばかりでなく、複数の紙を一つのプラグだけで連結させてしまうことができるということです。上の例を見てください。3つのパーツを青いプラグ一つでまとめています。このような構造はギフト系のパッケージに多くみられます。パッケージデザインは、まさにペーパークラフトのテクニックの宝庫です。ただし、中には意匠権に抵触するものもありますから、参考にする際にはご注意を。
 差し込みやフックが接着剤より便利なところは、接続位置がきっちり決まるということです。接着剤では、乾いて固定されるまでズレたり浮いたりするし、接着の時も位置を定めるのが容易ではないからです。

 しかし、接着に「差し込み」の要素を取り入れることで、より確実で簡単な組み立てができるようになるのです。上はその例で、のりしろの1部がプラグになっています。このプラグに「返し」が付いて固定されれば、乾くまで押さえておく必要もありません。

 つまり、接着剤とフックやプラグとは、合い入れない水と油のような関係ではなく、どちらもペーパークラフトをより楽しく、確実に作るための両立する要素なのです。

  それでは、次の講座までごきげんよう。この講座についてのご質問や、今後取り上げてもらいたいテーマについては、下記のメールにてお寄せください。 それでは、次の講座までごきげんよう。この講座についてのご質問や、今後取り上げてもらいたいテーマについては、下記のメールにてお寄せください。
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